法話を聞く・読む / 今月の法話 バックナンバー(No.414)

今月の法話  バックナンバー(No.414)

令和4年10月 No.414
相手目線でみると った世界えてくる

 私の母は、今年の3月まで抗がん剤の治療を受けておりました。現在は、治療が一段落し母の体調は安定しています。しかし、治療をはじめたころは薬の副作用が強く、全身の毛が抜けてしまい、体がむくみ、体調がすぐれない日々が続きました。ひどく落ち込む母に対して、どのような言葉をかけたらよいのか、私自身悩む日々でした。

 母は、当時病院の隣にある施設で治療をしていましたが、その施設では、お風呂が共同でした。母は髪が抜けてしまった姿を見られたくなくて、いつも誰もいない時間を見計らってお風呂に入っていました。

 ある日、母が一人でお風呂に入っていると、母よりも10歳ほど年上の70代後半の女性の方が入ってこられました。母はとっさに「あっ、すみません」と、頭を隠したそうです。そんな母に対して、その方は「あなたね、私何年生きてると思っているの。私も同じ治療をしたのよ。何にも恥ずかしいことじゃないからね。お体、大切にしてね」と、とても優しい言葉をかけてくださったそうです。その方はとっさに頭を隠した母の姿と自分の過去の姿を重ねられたのかもしれません。ご自身も病気をされて、同じ治療をされたことによって、母が抱える苦しみや悲しみが痛いくらいにわかったからこそ、優しい言葉をかけてくださったのだと思います。母は痛みを共感してくださる、この方の前だったら「もう頭を隠す必要はない」と思って、その日はとても安心してお風呂に入ることができたと言っておりました。

 相手の目線に立って痛みを共感するということは、なかなか難しいことですが、相手の目線でみることの大切さを教えていただいたように思います。

 阿弥陀さまは、私たち一人ひとりの目線に合わせてくださり、私たちが抱える痛みをどこまでも共感してくださる仏さまです。「あなたの苦しみは私の苦しみです。だからこそ、あなたのことを決して放っておくことができない」と今、と至り届き、私たちの人生をまるごと支え続けてくださっている仏さまです。

 阿弥陀さまのお心を聞かせていただき、相手の目線でみることの大切さを学ばせていただくなかで、また違った豊かな世界が開けていくのではないでしょうか。

大阪府東大阪市 本照寺 鴬地 清登

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