法話を聞く・読む / 今月の法話 バックナンバー(No.426)

今月の法話  バックナンバー(No.426)

令和5年10月 No.426
しい言葉り 言葉れる

 仏教では、「生老病死」という代表的なの4つの苦しみがあると説きます。生まれてきた以上は老い、病、死。これらの苦しみから逃れることはできないというのです。しかし、現代人は死を遠ざけて生きようとしますが、死ななくなったわけではありません。遠ざけても見ないようにしても逃げることはできませんし、いつやってくるかわからないという現実があります。

 そのいつ命終わるかわからない私に阿弥陀さまは「あなたを救う仏はもう届いておるよ、あなたの命終わっていくとき、お浄土一つへ参らせるよ」とおっしゃいます。阿弥陀さまのおおせと、参らせるというお浄土を受け入れていくということは、自分の命がいずれ終わっていくことをそのまま受け入れていると言えるでしょう。その上で、普段から仏さまのお話を聞きながら、「自分の命の終わり」を考えることが大事でしょう。もし、自分の死を受け入れることができたなら、それはすばらしい人生ではないでしょうか。

 1970年代に活躍した3人組のアイドルグループ「キャンディーズ」のメンバーで、「スーちゃん」の名で親しまれた田中好子さんが亡くなられて一年が過ぎたころのある週刊誌の記事です。

 「スーちゃん」の愛称でファンに愛された女優の田中好子さんが、乳がんで亡くなったのは2011年4月21日(享年55)。一周忌を前に、夫の小達一雄さん(57)が、スーちゃんの「最後の病室」の日々を語ってくれた。

 「家内とは、1991年5月に結婚しました。その翌年、乳がんが見つかって。その後も何度か再発しましたが、いずれも早期発見で。治療を受けながら芸能活動を続けていました」。そんな彼女が十二指腸潰瘍で入院したのが2010年10月。手術後2011年1月中旬にいったん退院するも、再入院。1週間後担当医から「がんの細胞組織が急激に増殖する状態で、このままでは夏まで持つか」と聞かされた小達さんは苦渋の決断の末、東日本大震災の3日後の3月14日に彼女へ告知した。

 「そうしたら、彼女はワァーッと泣き出して……。『かずさん、ごめんね。私は、これまでお芝居で何度も死んできた。だから、いま言われたことがピンとこないけど、かずさん、かずさんは大丈夫?……つらいことを言わせてしまって本当にごめんなさい、ごめんなさいね』と、何度も僕のことを心配してくれました。

 ここからは私の考えです。田中好子さんは最後に自分の病気・命の終わりのことよりも、それを気遣ってくれた旦那さんの方の心配をされています。「私は女優だから何度も、死んでいく役もした。また、家族として見送る役もしてきた。そのたびに役者として、その時その人はどんな思いで死んでいったのだろうか、家族はどんな気持ちで見送ってきたのだろうか、その都度真剣に考えた。また自分の病気のことを知っていたから、自分の死についても何度も考えた。しかし、あなたにはそんな経験ないよね。私が死んでしまったら、あなたは大丈夫?その悲しみに、その孤独に耐えられるの?それが本当に心配です」という気持ちではなかったのか、と思います。命終わっていくときに、相手の立場に立てる人、自分より周りの方のことを気遣える人は、それはやはり普段から「自分の死」を見つめていた方ではないでしょうか。

 浄土真宗は、阿弥陀さまが今ここに南無阿弥陀仏とご一緒くださり、命終わる時にはお浄土に参るご宗旨です。我々はたった一人で自分の命の終わりを見つめ、考えていくのではありません。阿弥陀さまに抱かれる安心の中で自分の命の終わりというもの見つめていける。「私の命はただ終わっていくだけの命ではなく、お浄土へ参り、仏さまとなる命であったといただいていくことができるのですよ」と、南無阿弥陀仏の中にお聞かせいただきます。

兵庫県神戸市 徳本寺 津守 秀憲

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