法話を聞く・読む / 今月の法話 バックナンバー(No.445)
今月の法話 バックナンバー(No.445)
一番より尊いビリだってある(東井義雄)
教育者で僧侶だった東井義雄さんは、幼いころから虚弱体質でしたが、15歳で入学した師範学校では、必ず運動部に入らなければなりませんでした。サッカー部、野球部、庭球部といった運動部の入部検査を受けますが、どれも下手すぎて受け入れてもらえません。水泳部ではプールでおぼれて、引き上げてもらう始末で、競争部の100メートル走もビリでした。栄養失調の身体では、人並みの体力もなかったのです。
あきれ顔の上級生たちの中で、気の毒そうに見ていた一人から、「おまえ、辛抱強く粘ることはできるか」と、尋ねられ、「粘ることならできると思います」と、答えると「ではマラソン部にとってやる」と言って貰えて、「よし、粘り抜いてやろう!」と、入部しますが、やはりビリを独占する毎日でした。
ビリを走りながら、毎日考えたことは「兎と亀」の話だったそうです。亀は兎に勝ちましたが、兎が亀を見下して一眠りしたので、たまたま亀が勝ったにすぎません。亀はいくら努力しても走力では兎に及びません。それなら価値ある亀になろう。最高のビリッコになってやろうと考え「もし、ぼくがビリッコを独占しなかったら、誰かがこのみじめな思いを味わうことになる。他の部員がこのみじめな思いをせずに済んでいるのは、ぼくがビリッコを独占しているおかげだ」ということに気がついたそうです。それは 「ぼくも、みんなの役に立っている」という発見でもありました。
『仏説阿弥陀経』には、青、黄、赤、白の花は、それぞれに美しく輝き咲き誇っていると示されています。それは、1位でも2位でもビリでも、絶頂やどん底のときでも、あなたには他者にはない途方もない価値が常に備わっている。どんなときも自分で自分を見捨てることなく、その価値に目覚めてほしいとの仏の願いです。花の色は個性です。個性に優劣は有りません。トップもビリも老若男女全てのいのちは意味ある輝きを放っているのです。
熊本県上益城郡 教尊寺 大道 修