法話を聞く・読む / 今月の法話 バックナンバー(No.434)
今月の法話 バックナンバー(No.434)
「晴れの日もよし雨もよし いつも仏の慈悲の中」
15年ほど前ですが、バイノーラル録音というものに熱中していた時期がありました。立体音響とも呼ばれ、録音した音をイヤフォンで聴くとまるでその場にいるかのような臨場感で音を聞くことのできる技術です。イヤフォンと同じ形をしたステレオのマイクを耳に装着して録音することで一般の私たちにも楽しめる録音方法です。
中でも、一番心地よく録音が楽しかった音は雨の降る音でした。お寺の中のさまざまな場所で雨音を録音したり、時には傘の下で雨音を録音していました。不規則に傘を打つ雨音は独特の心地よい響きを持っていました。昨年春に亡くなられた坂本龍一さんが入院生活の支えとしておられたのが雨音だったと最近知りましたが、少しわかる気がします。
では、いつでも雨が好きかといえば、普段の生活では雨の日は御免被りたいものなのです。出かける日が雨ですと、衣や足袋が濡れないように細心の注意をはらわねばなりませんし、ハガキ一通投函するときも、ハガキが濡れないよう気をつけなければなりません。「明日は朝から雨でしょう」という天気予報を見るだけで憂鬱になったりもします。人間は身勝手なものです。
20代の頃、勤務先のお寺のご法座でご講師から「天気に良いも悪いもない、自分で勝手に晴れを良い天気、雨を悪い天気と決めているだけではないでしょうか。雨の方が良い天気と思う人もおられることでしょう」と聞かせていただいたときは衝撃的でした。以来、“天気に良し悪しなし”を心がけて生活しているつもりですが、未だに晴れの日に人に会えば思わず「良い天気ですね」と挨拶をし、雨の日の行事では「生憎の雨で」とついつい口にしてしまいます。
そのように、天気ひとつに対しても良し悪しをつける私の暮らしはこれからも変わらず続くことでしょう。しかし、そのような身勝手な思いしか抱えていない私がいつも阿弥陀さまのお慈悲のど真ん中に居させてもらっているのです。そして「あなたを見捨てることができない、必ず仏にするぞ」と南無阿弥陀仏の声となり私に喚びかけておられるのです。皆さんもお天気の良し悪しについ愚痴をこぼしたときには、南無阿弥陀仏のお念仏を申して阿弥陀さまが喚びかけてくださっていることを思い出してみてはいかがでしょうか。
山口県下関市 念西寺 中山 浩司