法話を聞く・読む / 今月の法話 バックナンバー(No.407)
今月の法話 バックナンバー(No.407)
令和4年3月 No.407
なければないで苦しみ あればあるで苦しむ
なければないで苦しみ あればあるで苦しむ
インドの近くブータンという国に「ヘレヘレおじさん」という昔話があります。
ある日、ヘレヘレおじさんが畑仕事をしていると土の中から宝石が出てきました。そこで町へ宝石を売りに向かうと、途中で出会った人に馬と換えてほしいと頼まれました。おじさんはこころよく宝石と交換します。その後、馬を老いた牛に、牛を羊に、羊を鶏に交換していきます。最後は歌を歌っている男に出会い、おじさんは「歌と換えておくれ」と鶏を渡し、歌いながら帰路についたのです。ところがおじさんはなんと転んで頭を打ち、歌まで忘れてしまいましたというのがこの話のオチです。日本の「わらしべ長者」と話の流れは似ていますが、中身は全く逆ですね。私たちの価値観からすると信じられませんが仏教を大事にするブータンの人々はヘレヘレおじさんのように生きたいそうです。
今月の法語は「なければないで苦しみ、あればあるで苦しむ」です。私たちの苦しみの原因は物があること、ないことではありません。なければ欲しい。あればあったでまだ足りない、もしくは手放すことができないという執着する心が自らを苦しめるのです。ブータンの人々は、この話を子どもの頃から何度も聞くからこそ、執着から離れた軽やかな生き方が本当のしあわせと感じられるのでしょう。
私たちの阿弥陀という仏さまは、執着に苦しむ私をそのまま包み、受けとめてくださいます。私たちはヘレヘレおじさんにはなれません。だからこそ、損得や有無を超えた阿弥陀さまのお話を何度も聞かせていただくのです。くりかえしお聴聞いたしましょう。
岡山県井原市 光榮寺 佐藤 知水